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下らなくも愛しい日常
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何もしたくなくて、部屋の隅でぼんやりと空を見ていた。
最近そんなことが多い。
幼いころは、世界中がまぶしくて、じっとしていられなくて、いつも騒ぎまわっていた。
そんな中で、あの柔らかい掌でなでられたり、抱きしめられるときだけ、じっとしていたのを覚えている。
柔らかくて、暖かくて、いつまでもその掌が自分のためにあるものだと思っていた。

トントン
軽くやさしいノックの音とともに、柔らかい声が響いた。
「ランボちゃん、いますか?」
「あ、ハルさん?」
今まで思い出していた人の声に驚いて、ランボは腰を浮かす。
そのままあわてて、ドアの所へ飛んでいき、ドアの前に立っているであろうハルを驚かさないようにそっとノブを回して、引いた。

「コンニチワ、ランボちゃん?今忙しいですか?」
「いいえ?忙しくないです。」

―忙しくても、あなたの頼みならなんでも聞きます。

「じゃあ、一緒に市場に行きましょう!」
「はい」
いまだにイタリア語が不自由というハルは、日常的な買い物にランボを誘う。
唐突とも思える満面の笑み付きの提案に、ハルさんらしいと苦笑しながらランボは二つ返事で引き受けた。
平日の市場は程よくすいていて、おちついて品物を選びやすい。しかし、ハルはあちらこちらからかかる呼び声に、挨拶をしたり、断ったり、返事をしたり、商品を買う傍らとても忙しそうだった。
「ハヒ~、イタリアの市場の人はみなさん元気ですね。」
「みんなハルさんと話したくってしょうがないんですよ」
「ランボちゃん、いつからそんなお世辞を言うようになったんですか?」
「お世辞じゃないんですけど」
「だめですよ~そんなんじゃろくな大人になりません!」
わざと怖い顔になって言うハルの頭の中にいる大人は誰だろう?
ハルの心を占める大人は・・・

―この人のや優しさはすべて自分のためだと思っていた。

それが万人に向けられるものだとわかった時、最初の喪失を迎え
この人の唯一になれないとわかった時、二度目の喪失を迎えた。

そして
「ハルさん、荷物重くなっちゃいましたね。」
「そうですね~野菜とか、果物とかいっぱい買いましたからね。」
―あの人に栄養をつけてもらいたいから。
そんな声が聞こえてくる気がした。胸の痛みをわざと無視してランボは続けた。
「荷物、持ちましょうか、ハルさん、手が赤くなっている」
大好きな柔らかい手、せめてそれを守る存在になりたかった。
「大丈夫ですよ、ランボちゃんこそ、小さいのにそんなに荷物持たせてしまってごめんなさい」
こちらを見ないまま、笑顔で申し出を断ったハルは、少し先にある駄菓子屋を見つける。
「ランボちゃん、疲れたでしょう?手伝ってくれたお礼に、ハルが飴玉買ってあげます」
小さいころみた笑顔と変わらない笑顔で、態度で、ハルがそう提案した。

ハルさん、俺、身長はとうにハルさんを抜いたんだよ。
飴玉をなめることもなくなったんだ。
何人かの女のことも付きあったし、エスコートもできるようになった。
もう、ハルさんの荷物をすべて持つことだって難なくできるんだよ?
あなたを、守ることだって・・・

「いつもお手伝いありがとう」
「どうしたしまして、ハルさん」

あなたを守るすべを認められないとわかった時、三度目の喪失を迎えた。

停滞する関係性に、どんな未来があるというのだろう。
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